資生堂「アネッサ」が目指すインタラクティブなコミュニケーションとは?ブランド理解を深めるInstagram版チャットコマース | 株式会社ZEALS

資生堂「アネッサ」が目指すインタラクティブなコミュニケーションとは?ブランド理解を深めるInstagram版チャットコマース

Written by zeals recruit | 2022/12/15

Contents

今年、ブランド設立30年を迎えた資生堂のサンケアブランド「アネッサ」。100年以上の紫外線研究に基づく日本発のサンケアのエキスパートブランドとして、日本だけでなくアジア諸国に展開しています。

中でも、ブランドの世界観の発信やお客様とブランドを繋ぐデジタルコミュニケーション設計を担っているのがデジタルマーケティング戦略グループに所属する酒井千絢様です。今回、ジールスが2021年10月にサービス提供を開始したInstagram版チャットコマース®️との取り組み内容について話を伺いました。

酒井 千絢 氏
資生堂ジャパン プレミアムブランド事業本部
エリクシール・アネッサ 部 デジタルマーケティング戦略グループ

プロダクトアウトな発信からインタラクティブコミュニケーションへ、Instagramは重要なコミュニケーションハブ

本日は、宜しくお願いします。まずはじめに、資生堂のサンケアブランド「アネッサ」は近年SNSを活用したブランド発信を強められているとのことですが、インタラクティブなコミュニケーションが重要な背景にどのようなことが挙げられますか?

まず、日焼け止め市場におけるお客様のニーズがパンデミック以降、変化していることからお話できればと思います。2019〜20年にかけて、レジャー・リゾート・バカンスの機会が減り一時的に需要はダウンしたものの、生活者が自身の素肌と向き合う時間が多くなり、シミやしわ等の肌悩みをどう改善したらいいのかと、素肌ケアに積極的に取り組む方々が増加しました。実は、肌老化における原因の2割は加齢によるもの、一方で残りの8割は「紫外線」といわれているんです。SNSを中心にこのような情報に触れることが増えたお客様が、肌悩みを解決するのに紫外線対策が欠かせないんだと気づき、素肌と向き合う中で、日常的にUVケアをしていくことへのニーズが高まってきました。

一方で、これまでアネッサは、長年のコミュニケーションの効果もあり特に「夏に絶対焼かない!」といったシーズナルな利用イメージが先行していました。さらに、強力なUVブロック効果が強みだからこそ、日焼け止めにおける「かさつく」「ベタつく」「肌が荒れる」などといった従来のマイナスイメージを払拭する必要がありました。さらに今年2022年、アネッサはデイリー使いにぴったりのラインアップに大幅リニューアルしただけでなく、サンケアのエキスパートとして、未来の美肌作りこそUVケアが重要であり、大きく変化した生活者のライフスタイルに寄り添ったコミュニケーションに大きく舵を切りました。

そのため、特にSNS等のデジタルコミュニケーションにおいては「こんなに私たちの商品って高機能ですごいんです」といった商品スペックやビジュアルだけのプロダクトアウトな発信ではなく、お客様が今何に悩んでいるかを我々が理解し、インサイトを引き出し、お応えするためにもインタラクティブなコミュニケーションを重要視している背景があります。

具体的にどのような取り組みをされていて、SNSの中でInstagramはどのような位置付けなのか教えてください。

アネッサでは、お客様のインサイトを引き出すための施策として、InstagramやTwitter、TikTokを活用しています。中でも、2017年から開設しているInstagramのアカウントはインタラクティブなコミュニケーションができる重要なソーシャルコミュニティハブとして位置付けています。

日焼け止めカテゴリーにおいて、いわゆる紫外線対策需要が高まる春から盛夏期が終わる9月までをトップシーズンとすると、数年前はトップシーズンのみ発信することに留めていました。しかし、昨年からは高まるニーズに合わせ通年での運用を開始。一方的なブランドの発信だけでなく、お客様が何を求めているかヒアリングする場やインサイトを引き出すためのQ&Aを実施し、それらを反映したリール素材やコンテンツ制作に取り組んでいます。

アネッサならではの商品の魅力を丁寧に伝える、従来型のチャットボットとは異なる血の通ったコミュニケーションに見出した活路

日本における昨今の日焼け止め市場は、乳液ミルクタイプよりジェルタイプの方がニーズとして高まってきています。アネッサも、強力UVブロックのミルクタイプだけでなく、今年から「デイリーなシミ予防に最適な2種類のジェルタイプ」を定番商品として揃えました。長年の開発により、全ラインアップにおいて高いスキンケア効果とUV防御力の両立を実現できています。

そのため今期のマーケティング戦略の大きなテーマは、「毎日のシミ対策こそ、アネッサのデイリージェル」と定め、今年度全国放映した小松菜奈さん出演のTVCMをはじめとするIMCコミュニケーション戦略として、あらゆるタッチポイントで「毎日使えるアネッサのUVジェル」とうたっています。

一方、私が担当しているデジタルコミュニケーション領域においては、お客様が年に数回の日焼け止め選びのタイミングで、自分に合う日焼け止めはどれなのか、さらにアネッサが自身の素肌の肌悩み解決の一助になるということをどう伝達すべきかを課題と捉えていました。そうなると、単なる認知やインプレッション獲得だけではなく、商品理解はもちろんのこと、お客様が今抱えている悩みをヒアリングしながら購入へのエンゲージを高めてもらうことがデジタルのコミュニケーションにおいて大切だと考えたんです。

そのような背景から今回の取り組みが始まったんですね。元々、チャットコマースをご存じだったと伺っていますが、導入に至っていなかった理由はなんだったのでしょうか?

元々、アネッサではチャネルとしてLINE公式アカウントを持っていなかったこともありますが、何よりFAQやカスタマーサポートとして設置されていることが多いチャットボットは、機械的なリプライや血の通っていないコミュニケーションを取るイメージが強くありました。ブランドの公式SNSにチャットボットを導入すると、お客様に対するコミュニケーションの質が逆に下がってしまうんじゃないかという懸念が正直ありました。

しかし、ジールスさんの提案をお伺いした際、「従来のチャットボットとは違う」ことに気付かされました。言葉遣いの一つをとっても、コミュニケーションデザイナーの方のシナリオ設計によりブランドらしさを表現することができる点や、インタラクティブなコミュニケーションが図れる点が画期的でした。Instagram版チャットコマースがリリースされたタイミングだったこともあり、アネッサとしての取り組みをスタートさせていただくことになりました。

チャットコマースであなたにベストなUVジェルを診断。お客様の購買に寄り添うコミュニケーション設計と得られたユーザーインサイト

具体的にInstagram版チャットコマースでどのような取り組みをされたのでしょうか?

ジールスさん側からいくつかの提案をいただき、最終的にはお客様にベストなUVジェルタイプを診断するコンテンツ設計で進めることになりました。

この施策に決定した背景としては、日本市場においては、サンケア商品を購入する場所の大半がオンラインではなく、ドラッグストアをはじめとする店頭であることが挙げられます。多くのサンケア商材が並んでいる売り場で、どの商品がいいのか、価格差やスペック差は何なのかなどお客様が判断することは非常に難しいです。リンク広告の場合、CPM※1を下げて認知はしていただけますが、CPC※2やヒートマップ※3を見ても、どこまで理解してもらえたかは識別しづらく、お客様ご自身に判断をお任せするしかない現状でした。チャットコマースを通して、最適な商品をレコメンドし、資生堂公式ECサイトである「Watashi+」を通して商品を購入したかどうかまでコミュニケーションを図れることが、これまでお客様の理解度にお任せし、タッチできていなかったブランド課題に対して大きなソリューションになり得ると考えました。

※1 Cost per Mille(CPM)とは、Web広告の課金方法の一つで広告を1,000回表示させるのにかかる費用のこと
※2 Cost Per Click(CPC)とは、クリック数に対して課金する広告のこと
※3 あるページにアクセスしたユーザーの行動データを画面上に色付けして表示したもの

実際の成果について伺ってもいいでしょうか?

そんな期待を抱きつつも、多くのユーザーがチャットボットの診断コンテンツを最後まで体験するとまでは想定していませんでした。Instagramは、SNSの中でもかなりの速さでタイムラインが流し見されていきます。そのようなスピード感の中でユーザーが診断コンテンツを開始しても、一定の離脱者が出ると仮定していました。

しかし、診断コンテンツの完了率は想定を超える約90%を記録したと報告をいただき、診断後に実施したアンケートでも商品理解を深めたユーザーは約95%におよび、チャットコマースでのジェルタイプ診断を通して、ブランド理解が促進できたといえます。

先ほど、サンケア商材はドラッグストア等の店頭で購入されるお客様が多いとお話がありましたが、診断を完了したユーザーは実際に購入までつながっているのでしょうか?

先ほどのアンケートでは、「購買転換率」に関しても調査を実施いただきました。すると、チャットによる診断を受けた約20%※5のユーザーが診断後24時間以内に「商品を購入した」と回答。その内約80%のユーザーが「店舗で購入した」という結果が得られました。オンラインで商品購入するハードルが高いサンケア商材ということもあり、チャットコマースを通して認知と深い理解までしていただければ、最終的にどちら(オンラインまたは店舗)で買うかはお客様のベストなタッチポイントで良いと考えています。なので、チャットに触れたお客様一人ひとりが持つそれぞれの肌悩みに対しアネッサのどのUVジェルが解決の一役となりえるかを、納得感をもって訴求できた結果、ここまでの短時間で、購入という行動変容にまで繋げられたと思いました。

※5 24時間以内に実施した事後アンケート

アンケートで得られたユーザーデータについてはどのように分析されていますか?

これまで、デジタルアド関連の事前事後調査は一定の期間確保した上で行ってきましたが、ここまで早いタイムラインで、行動変容に至ったかの調査はなかなかできていませんでした。ネット調査は、他の要素や条件に左右されてしまう部分があるのに対して、事後直後調査なので信用にたる結果かつ「店舗で購入した」データが取れたという意味で、今回の取り組みはOMOの成功施策として社内で評価しています。

オンライン上でモーメントが高まったその一瞬を基軸に お客様の悩みに寄り添い、購入体験を進化させる

今回の取り組みで成果と新たなユーザーインサイトが取得できたことを嬉しく思います。総合的に今回の施策をどう振り返られているのでしょうか?

結論、Instagram版チャットコマースとアネッサの相性は非常に良かったと考えています。診断完了率や購入転換率の高さもありますが、Instagramの通常のリンクアド広告は、ブラウザに遷移させることを重視した施策の場合離脱率もある程度高いといわれています。それはお客様に少なからず外部遷移によるストレスを与える伝わり方をしているからだと思います。チャットコマースの場合、Instagramのアプリ内で完結できるコミュニケーションなので、ストレスを軽減し、かつユーザーの求めている肌悩みに基づくベストな情報を1to1な診断コンテンツを通して届けることができたと考えています。もちろん全てが伝わり切ったとは考えておりませんが、だとしても今回の施策を通して、サンケアニーズの高いお客様をセグメントしながら、チャットの伝達テキストひとつにとってもお客様に最適な人間味のある言葉遣いにするであったり、離脱ポイントがないか常にウォッチし、すぐさまクリエイティブや伝え方を微修正するであったり、従来のチャットボットとは異なる丁寧なアクションを緻密に実行いただきました。

また、ジールスの皆さまには私たちと同じ課題意識を持って、PDCAを回していただけるところに強みを感じました。普段さまざまな企業様とお取引をしていますが、定量的な成果だけでなくエンドユーザーから得られたインサイト(過程や態度変容、チャット事後の読後感)に基づいて、n1の分析を徹底的に掘り下げて提案をしていただきました。そういう意味でも、マーケティング施策として投資対効果が高いと判断しています。

一緒にお取り組みができたことを嬉しく思います。最後に、今後の展望を伺っても良いでしょうか?

アネッサとしては、まだまだ発展途上にあるお客様とのインタラクティブなコミュニケーションに継続して挑戦していきます。ヒアリングしきれていないお客様の悩みに寄り添い、どうブランドとしてアウトプットしていくかに向き合い続けたいと思っています。

来年、資生堂が社として日焼け止めを初めて発売してからちょうど100年という節目を迎えます。デジタル上でのコミュニケーションの重要性が増す一方で、情報が溢れ取捨選択がさらに難しくなる現代において、お客様の健やかな肌作りのためのお手伝いをできる余地がまだあると確信しています。

オンライン上でモーメントが高まったその一瞬を起点に、お客様の不安要素をできるだけ払拭しつつ、肌のことを想いながら化粧品を吟味し購入し実感するという、本来の肌も心も高まるトータルエクスペリエンスをより豊かなものにしていきたいです。